【連載】研究最前線⑥「肥満に対するmRNA医薬品のアプローチ」
1.肝酵素による肥満治療の可能性に関する研究
2022年4月テキサス大学健康科学センターの研究者たちは、肥満マウスを使用した最新の研究成果を発表しました。
肝酵素を阻害することにより、以下3つの効果を確認することができました。
食欲の低下
脂肪燃焼量の増加
体重の減少
この研究は、肥満治療の突破口となるかもしれません。
阻害剤による肥満治療に及ぼす影響
この研究では「CNOT6L脱アデニル化酵素」と呼ばれる酵素を阻害します。
CNOT6L脱アデニル化酵素は、以下2つのタンパク質の合成に関するmRNAを制御しています。
脳に食物摂取のタイミングを伝えるタンパク質
脂肪組織にエネルギーをより多く消費するよう伝達するタンパク質
研究ではID1という阻害剤を使用し、CNOT6L脱アデニル化酵素活性を阻害することで、マウスの血液内にある各タンパク質の量を増加させました。その結果、12週間後にはマウスの食物摂取量及び体重が30%減少しました。
ID1は、ヒトの肥満治療に重大な影響を与える可能性があります。
例えば、肥満治療による年間医療費の抑制に繋がります。米国疾病対策予防センターによると、米国の成人肥満率は約42%で、今後も上昇し、黒人やヒスパニック系のコミュニティでその割合が高くなると予想されています。2008年、肥満による年間医療費は1470億ドルにものぼっています。
またこの研究は、肥満の関連疾患である2型糖尿病への対策や予防にも繋がる可能性があります。
さらにNicolas Musi医学博士はプレスリリースで「代謝性疾患の治療において、mRNAを標的とすることは、かなり新しい概念です」と述べています。
肥満や体重管理を目的とした薬剤は数多く市販されていますが、そのほとんどは食欲抑制剤や体内の脂肪を分解する機能を阻害するものです。
今回の研究により、mRNAを標的とした治療法への道が開かれ、医薬品として開発することに成功すれば、食欲を減少させながら脂肪を燃焼させるという治療法が可能になります。
2.まとめ
今回は、肥満の領域から、mRNAをターゲットとした研究を紹介してきました。
mRNAを使った医療の可能性は広く、さまざまな研究がなされています。次回以降も、さまざまな研究の動向をお伝えしていきます。
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