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【連載】mRNA医薬品研究最前線⑩「研究動向まとめ3:吸入型ワクチン、doggy bone DNA、ブースターショット」

こんにちは。株式会社ARCALIS(アルカリス)です。

私たちの手がける「mRNA」という研究領域についてご紹介するこの連載。
第2回目の記事では、「サル痘」・「インフルエンザ」・「膵臓がん」という3つの領域をまとめました。
今回は、「吸入型ワクチン」・「doggy bone DNA」・「ブースターショット」という3つの方向からmRNAワクチンに関する研究動向についてまとめていきます。

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1.吸入型ワクチンに関する研究

参考文献

2022年7月5日、ノースカロライナ州立大学の研究者らによってCOVID-19の新しいmRNAワクチン接種方法として吸入型ワクチンに関する研究が発表されました。

COVID-19の主な感染経路は呼吸器飛沫であり、気道粘膜の免疫反応に大きく影響されることが分かっています。しかしながら、現在のmRNAワクチンは筋肉注射によって全身に免疫を誘発する仕組みになっており、粘膜免疫の効果として不十分と言われています。

一方、今回報告された吸入型ワクチンでは粘膜免疫を効果的に刺激することが可能です。肺に直接ワクチンを届けるために、吸入型ワクチンの送達機構はLSC-Exoと呼ばれる肺スフェロイド細胞由来のエクソソームを用いました。

LSC-Exoでは従来のmRNAワクチンの送達機構であるLNPよりも肺の粘膜回避効果が高いことが明らかになったと報告しています。また室温で最長3カ月間保存可能とされ、自己投与が可能になるためパンデミック時に従来より早くワクチン接種を完了することが可能になります。

残されている課題はエクソソームの大量生産技術の開発です。

2.doggybone DNAに関する研究

参考文献

2022年7月6日、Pfizer社はTouchlight社と契約を結んだことにより"doggybone DNA"(dbDNA)をmRNAワクチンや治療薬などに活用することを発表しました。 

現在、mRNAワクチンの出発原料として"plasmid DNA"(pDNA)が用いられています。しかし、微生物発酵のため生産性も低く、精製工程も複雑とされています。

一方でdbDNAは酵素を用いて製造されるため、短期間で製造可能なため生産性が高く、ベンチトップ型のシンプルな使い捨て装置で精製可能になります。バクテリアの配列を排除した最小限の直鎖状二本鎖の共有結合で閉じられたDNA構造も持っているため、長く複雑な配列や不安定な配列もコード可能です。例えば20kbを超える遺伝子にも対応することが可能です。

近い将来、mRNAワクチンの出発原料としてdbDNAが用いられる日がやってくるかもしれません。

3.オミクロン株亜種に対するブースター接種に関する研究

参考文献

2022年7月12日現在、モデルナ社はオミクロン株の亜種であるBA.1、BA.4及びBA.5に関する2種類の2価ブースター(mRNA-1273.214、mRNA-1273.222)接種の効果に関する研究結果を発表しています。

まず検査対象全ての変異種に対して有意に効果の高い抗体価が実証されているブースター候補の1つであるmRNA-1273.214を現在のブースターと比較するとBA.4/5に対する中和抗体量が1.69倍になることが示され、3種類の亜種に対して事前に指定された全ての主要評価項目を満たしました。さらに第2/3相臨床試験の結果から免疫反応の幅と耐久性に優れていることも示されました。

モデルナ社は既にFDAとデータ共有をはじめ、2022年秋までにmRNA-1273.214が市場に出回ることが期待されています。

次にBA.4/5に有意に高い効果が期待されるmRNA-1273.222は、FDAの助言に従って開発が進められている段階となっています。

4.まとめ

今回は、2019年から流行しているCOVID-19に関して「doggybone DNA」・「吸入型ワクチン」・「ブースター接種」という3つの角度からのmRNAワクチンに関する最新の研究を紹介してきました。

mRNAワクチンは多くの研究によって日々進化しています。次回以降も、mRNAに関するさまざまな研究の動向をお伝えしていきます。

ARCALISでは、mRNA医薬品の創薬支援・CDMOサービスをご提供しております。協業・ご依頼に関しましては、下記よりお気軽にお問合せください。

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