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【連載】mRNA医薬品研究最前線②「がん治療に対するmRNA医薬品の可能性」

こんにちは。株式会社ARCALIS(アルカリス)です。

私たちの手がける「mRNA医薬品」という事業領域についてご紹介するこの連載。
第1回の記事では感染症ワクチンでの実用例を中心にご紹介してきました。

mRNAワクチンの解説についてはこちら
ARCALISのメンバーインタビューはこちら

第2回となる今回は「がん治療」の領域でのmRNA医薬品の可能性についてご紹介していきたいと思います。


1.がん治療の現状

①がんが起こるメカニズム

わたしたちの体は、たくさんの細胞によってできています。

それぞれの細胞には遺伝子が存在し、その遺伝子の命令によって、細胞は分裂したり、様々な役割を持つ細胞に分化したりすることによって、私たちの生命を維持します。

しかし、老化などの原因で細胞の遺伝子が傷つくと、分裂の際に変異した細胞ができる場合があります。

このような変異細胞は通常、免疫システムが体から取り除いたり、別の遺伝子のはたらきによって増殖を抑えられたりしますが、長い時間のうちに、こうした免疫システムをすり抜けて残ってしまう細胞が出てきます。

生き残った変異細胞が分裂の過程でさらに遺伝子の異常を積み重ねると、やがて増殖に歯止めが効かなくなり、大きな塊となります。

これが「悪性腫瘍」、がんと呼ばれるものです。

がん細胞はさらに、血液などを通じて全身に広がったり(浸潤)別の場所で増殖して腫瘍を作ったり(転移)するようになり、健康に大きな悪影響を与えます。

②がんによる死亡リスク

高齢化が進む日本において、がんにかかる人や、がんによって死亡する人は増え続けています。

国立がん研究センターが出している将来推計では、75歳以上のがん罹患数と死亡数について、下記のような推計を出しています。

数値出典:平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

2020年から2034年にかけて、がんにかかる人が急速に増えていくと予測されていることがわかります。

③従来の治療法とその限界

がんの治療法には、

  • がんを外科手術によって切除する手術療法

  • がんの部位に放射線をあてる放射線療法

  • 抗がん剤を用いる化学療法

の3つがあり、「がんの3大治療法」とも呼ばれています。

さらに近年、4つ目の治療法として登場したのが「免疫療法」。体内の免疫細胞に指令を出し、がん細胞を攻撃させるというものです。

現在はこの4つの治療法を、がんの部位やステージに応じて組み合わせることで治療を行っています。

一方、外科手術で取り除けるがんの部位には限界があったり、化学療法などの治療法はがんだけでなく健康な細胞まで殺してしまったりするなど、様々な問題があります。

特に高齢者の場合、治療の負担に体が耐えられないことも多く、治療せずに進行を遅らせる選択肢を取らざるをえないこともあります。

2.mRNAワクチンによるがん治療の可能性

では、mRNAを活用したがんワクチンは、従来とどのような違いがあるのでしょうか。その仕組みから解説します。

①「がん細胞由来のタンパク質」に着目し、がんのみを攻撃

mRNAを用いたがんワクチンは、免疫療法と同様、体内の免疫システムにがんを攻撃させることで治療を行います。

従来の免疫療法は、がん細胞が持つ「免疫細胞からの攻撃を回避するシステム」を阻害することで効果を発揮しています。

対するmRNAを用いたがんワクチンは「がん細胞のみが作るタンパク質」を免疫システムに積極的に異物として認識させることによって、効果を発揮しようとしています。

これにより、がんだけをピンポイントで攻撃することが可能になると考えられています。

免疫療法以外のがん治療法では、正常な細胞も攻撃してしまうことによる副作用が大きなリスクとなっていましたが、mRNAワクチンを加えた免疫療法であれば副作用を軽くできるのではないかと期待されています。

また、mRNAがんワクチンは患者自身のがん細胞の遺伝子を元にして作られるため、患者ひとりひとりに合わせた効果的なワクチンを作れるようになると考えられています。

②mRNAがんワクチンを使った治療の仕組み

具体的にどのような仕組みで、mRNAがんワクチンは効果を発揮するのでしょうか?

mRNAが患者さんの細胞の中に投与されると、正常な細胞には存在しない、がん細胞特有の遺伝子変異に起因した変異タンパク質が作られます。

この変異タンパク質は断片化されたのち、免疫システムに認識されます。がん細胞の特徴を免疫システムが学習することで、特有の変異をもつがん細胞だけを集中して攻撃できるようになります。

このような仕組みで、mRNAがんワクチンは、がん細胞だけを攻撃することができるのです。

③mRNAでのがん治療に向けた課題

がんだけを攻撃する効果を期待できるmRNAがんワクチンですが、課題もあります。

感染症のmRNAワクチンの場合、ウイルスを免疫システムに異物と認識させるタンパク質は、もともとヒトの体内にはありません。いっぽう、がん細胞の変異タンパク質は、もともと正常だったヒトの細胞が変異したものです。

そのため、がん細胞の変異タンパク質を免疫システムに異物と認識させるのは、感染症よりもハードルが高いとされています。

これらの課題を克服するために、既存の免疫療法などと併用する方法や、免疫システム側にmRNAを作用させ、その働きを強める方法など、さまざまなアプローチが進められています。

3.実用化に向けた研究の現状

最後に、実用化に向けた研究の現状について紹介していきましょう。今回紹介したワクチン以外にも様々なものがありますので、種類別にわけて紹介していきます。

がんワクチンの開発においては2022年現在、BioNTech社が最も力をいれています。

①mRNAを用いたがんワクチン

これまで説明してきた、特定のがんだけにあるタンパク質を標的としたワクチンの実用化に向けた研究です。

特定のがんで頻繁に発現する変異タンパク質(抗原)のmRNA情報を活用したワクチンと、患者さんの固有の変異タンパク質(抗原)のmRNA情報を活用したワクチンの2種類が開発中です。

■BioNTech
・FixVac(BNT111,112,113,115)
→特定のがんで頻繁に発現する変異タンパク質(抗原)を利用
・iNEST(BNT122)
→患者ごとのがんに固有の変異タンパク質(抗原)を利用

■Moderna
・KRASワクチン(mRNA-5671)
→すい臓がんなどに見られる変異KRASタンパク質を利用
・PCV(mRNA-4157)
→患者ごとのがんに固有の変異タンパク質(抗原)を利用

②腫瘍内免疫療法

腫瘍内に直接mRNAを注射し、がん細胞自身に免疫システムを活性化するタンパク質を作らせる治療法です。

mRNAを注入されたがん細胞が全身をめぐることで、注射した場所以外の腫瘍の治療にも一定の効果があることがわかっています。

■BioNTech
・SAR441000(BNT131)
:IL-12sc, IL-15sushi, GM-CSF, IFNαの情報を利用

■Moderna
・mRNA-2752:
OX40L, IL-23, IL-36γのmRNA情報を利用

そのほかにも、がん細胞を攻撃する目印となる抗体を体内で直接作る方法や、患者自身の免疫細胞を取り出して強化し、体内に戻す方法など、mRNAを活用した様々なワクチンが研究・開発されています。

4.がん治療の可能性

多くの高齢者の死亡要因となっているがんについても、mRNAによって新たな治療方法の地平が開拓されつつあります。

近い将来、がんは怖い病気ではなくなっているかもしれません。

第三回目となる次の記事では、がんや感染症以外の稀少疾患の治療について解説をしていきます。

ARCALISでは、mRNA医薬品の創薬支援・CDMOサービスをご提供しております。協業・ご依頼に関しましては、下記よりお気軽にお問合せください。

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