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【連載】mRNA医薬品研究最前線①「感染症対策のあり方を変えるmRNA医薬品」

こんにちは。株式会社ARCALIS(アルカリス)です。

私たちの手がける「mRNA医薬品」という事業領域は、今までとはまったく異なる医薬品のカテゴリとして、これからの医療を大きく変えるポテンシャルを秘めています。

中でも特に活用を期待されているのが、

・感染症ワクチン
・がん治療
・遺伝性疾患治療

の3つの領域です。

この記事では、2022年現在、mRNA医薬品の研究がどんな分野で進んでいるのかについて、連載形式で解説していきたいと思います。

mRNAワクチンの解説についてはこちら
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第一回となる今回は、感染症領域でのmRNA医薬品について紹介します。


1.感染症予防とmRNA医薬品

①感染症ワクチンに活用されるmRNA

私たちの細胞内にあるmRNA(メッセンジャーRNA)は、DNAから情報を読み取って伝え、特定のタンパク質を細胞に作らせるという、メッセンジャーの役割を果たす物質です。

 この特徴を利用し、特定の情報を持ったmRNAを細胞内に届け、細胞自身に必要なタンパク質を作らせるのがmRNA医薬品です。

その中で現在最も実用化が進んでいるのが、COVID-19(新型コロナウイルス)ワクチンをはじめとした感染症ワクチンへの活用です。

②mRNAワクチンの仕組み 

では、mRNAワクチンはどのような仕組みで感染症を予防するのでしょうか。

人間の体には「抗体」という仕組みがあります。これは体内の特定の異物と結びついて排除するよう知らせる、マーカーのような役割を持つ物質です。

一度かかった感染症にかかりにくくなるのは、ウイルスに対応する抗体が、再度体内に侵入したウイルスに反応して結びつき、体内の免疫システムに素早く攻撃させるからです。

mRNAワクチンは、ウイルスの一部分(スパイクタンパク)の情報を持ったmRNAを細胞に入れ、そのタンパク質を細胞に作らせます。

作られたタンパク質を外から来た異物と認識した体が抗体を作り、本物のウイルスが入った際にすばやく対処します。このような仕組みでmRNAワクチンは感染症を予防します。

2.従来のワクチンとの違いと強み

ワクチンには、毒性を弱めたウイルスを利用して抗体を作らせるものや、ウイルスを構成するタンパク質や、DNAを投与するものなど、様々な種類があります。

これらのワクチンと比べ、mRNAワクチンは下記3つの強みを持っています。

①幅広いウイルスのワクチンを作れる
②ウイルスの変異にすぐ対応できる
③少ない設備で大量に生産できる

①幅広いウイルスに対応できる 

mRNAワクチンは、mRNAに持たせる情報を変えるだけで、幅広いタンパク質を体内の細胞に作らせることができます。

必要なタンパク質を作り出すための遺伝子情報だけあれば、弱めたウイルスを使う必要も、ウイルスの一部を構成するタンパク質を作る必要もありません。そのため、同じ設備でさまざまな感染症に対応することが可能です。

②ウイルスの変異にも柔軟に対処できる

感染症ウイルスが増殖の過程で突然変異を起こし、今までの抗体が反応しないウイルスが生まれる場合があります。

変異ウイルスが現れた場合、新たにそれに対応するワクチンを作らなければなりません。

mRNAワクチンは、変異ウイルスの特徴となる遺伝子情報が分かれば、すぐに新しいワクチンを作ることが可能です。

③少ない設備で大量に生産できる

上記のように、mRNAワクチンはウイルス固有の遺伝子情報を元にしたmRNAの作成だけで様々なウイルスや状況に対応できるため、従来型ワクチンより大幅に少ない設備で生産が可能です。

これにより、従来よりも低コストでワクチンを届けられるようになります。

3.mRNAワクチンの現在

このように感染症ワクチンとしての実用化が進むmRNAワクチンですが、現在どのようなウイルスへの応用が進んでいるのでしょうか。

①COVID-19(新型コロナウイルス)

2022年3月現在も広い範囲で感染が確認されているウイルスです。研究が進められ、一部はすでに実用化しています。現在、日本で接種されている新型コロナウイルスワクチンはすべてmRNAワクチンです。

【すでに実用化済のもの】
・BNT162b2 (Pfizer/BioNTech)
mRNA-1273 (Moderna)

【臨床試験段階のもの】
CV2CoV (CureVac)
ARCT-154 (Arcturus)

②HIVウイルス

HIVウイルスは正式な名前を「ヒト免疫不全ウイルス」といいます。このウイルスは異物から体を守る免疫システムそのものを破壊し、「後天性免疫不全症候群(エイズ)」を引き起こします。

長らく有効とされるワクチンが現れていないウイルスでしたが、2021年12月に動物実験でmRNAワクチンの有効性が確認され、2022年1月には臨床実験が始まるなど、研究が進んでいます。

【臨床試験段階のもの】
mRNA-1644(Moderna)
mRNA-1644v2-Core(Moderna)

③ジカウイルス

ジカウイルスは「ジカ熱」という感染症の原因となるウイルスです。死に至ることはまれですが、妊婦が感染した場合は胎児に小頭症などの先天性障害を引き起こす場合があります。

これまで有効なワクチンはありませんでしたが、こちらも米Modernaによって臨床試験が進められています。

【臨床試験段階のもの】
mRNA-1893(Moderna)

4.今までの感染症予防のあり方を変えるmRNA技術

mRNAを活用したワクチンは、これまで対応できなかった感染症の予防ができるようになったり、いままでよりも安価にワクチンを提供できるようになったりと、感染症予防の分野において大きな変化を生みつつあります。

しかし、mRNAが医療にもたらすインパクトはこれだけではありません。

次回の記事では、mRNA医薬品を用いたがん治療の研究について解説をしていきます。

ARCALISでは、mRNA医薬品の創薬支援・CDMOサービスをご提供しております。協業・ご依頼に関しましては、下記よりお気軽にお問合せください。

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